インタビュー

なぜ顧客データベース活用は難しいのか?ユーソナー 湯浅氏に聞く、顧客データ活用“はじめの一歩”

なぜ顧客データベース活用は難しいのか?ユーソナー 湯浅氏に聞く、顧客データ活用“はじめの一歩”

コロナ禍によりお客様と接する機会が減ったことで、改めて自社が持つ顧客データベースに着目し営業DXに取り組みはじめる企業は少なくないでしょう。しかしいざ顧客データベースを活用しようとするものの取り組みに課題を感じるという声も。

顧客データベース活用につまずく理由とは何か。また活用するにはどこからはじめるのが効果的なのか。

今回、ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員の湯浅将史氏に、顧客データベース活用が進まない原因と対策について詳しくお話を伺いました。

  • ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅 将史(ゆあさ・まさし)

    ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員

    湯浅 将史(ゆあさ・まさし)

    2005年:ユーソナー株式会社入社。15年以上、法人営業として様々なビジネス課題の解決に従事。2018年10月:営業本部DXグループ執行役員。BtoBマーケティングの基盤となる顧客データベースの構築・維持・活用のポイントについて、各種セミナー・イベントに多数登壇している。社内の所属サークルは「釣り部」。

目次

コロナ禍を経た現在の「顧客データベース活用」における課題とは?

ーー日本のBtoB企業の顧客データベース活用の現在地をどのようにとらえていますか。

当社が企業のデータ活用に向けた支援を行うなかで、データ活用のニーズや機運は年々高まっていると感じます。その背景には、コロナ禍の影響で展示会やイベントを開催できなくなり、顧客と直接の接点をつくる機会が失われたことがあります。

営業機会を増やすためにも、まずはこれまで接点を持った顧客のデータを活用しようとDXに取り組む企業が増えている印象です。

特に経営層の方たちが、蓄積してきた顧客データを「どのように活用すれば良いか」「どのように他社は活用しているのか」という観点で情報収集されることが多いですね。

「2024年問題」はじめ、いかに営業生産性を上げるかが改めて課題に

ーー2024年現在、オフラインの展示会が再開するなか、顧客データベース活用に関する課題はどのように変化していますか。

「2024年問題」といわれるように、物流・運送・建設業界などへ労働者の時間外労働に関する規制が適用されることで、限られた労働時間の中で成果を最大化させることが社会的な課題になっています。

これまでは、コロナ禍の影響で失われた顧客との接点づくりの機会を、自社の顧客データベースを活用して回復しようという流れでした。しかし2024年現在は、日々の業務生産性を高めるためにさまざまな取り組みが進んでいるなか、いかに自社の顧客データベースを活用するかについて重要なポイントのひとつになってきていると思います。

オフラインの展示会をきっかけにしたリード獲得の流れは復活しています。そこで集めた顧客データをどのように活用するかが新たな課題です。

ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅将史氏
ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅将史氏

顧客データベース活用が進まない3つの原因と対策とは?

ーー顧客データベースを活用し営業生産性を上げたいと考えDXに取り組むものの、なかなか成果につながらないという声も聞きます。どのような原因があると考えますか。

【原因1】経営層の理解を得られない

顧客からのご相談を受け支援しているなかでは、大手企業ほどDXの取り組みは進んでいる印象です。ただDX推進にあたっては、経営層に対して費用対効果を示し理解を得るという点で、現場の担当者は苦労しているという声をよく聞きます。費用対効果を数値で示すことを求められるものの、はじめての取り組みであるため定量的には出しづらい。

顧客管理システムの導入を提案しても、「現状でも顧客データを蓄積できている」「顧客データは営業が集めるものだ」という考えが強く、提案が通らないケースが少なくないようです。

顧客データベース構築・活用に対する経営層の理解が得られない場合は、DX推進を難しくしている。各企業とも試行錯誤の段階で、意識が変わってきているもののまだ発展途上という印象を持っています。

ユーソナー株式会社のオフィスは、「ジャングルエリア」「古代ローマ風エリア」などユニークなコンセプトによってエリア分けされている。今回の取材は美大生に廃墟をイメージして壁面ペイントしてもらった会議室で実施。
ユーソナー株式会社のオフィスは、「ジャングルエリア」「古代ローマ風エリア」などユニークなコンセプトによってエリア分けされている。今回の取材は美大生に廃墟をイメージして壁面ペイントしてもらった会議室で実施。

顧客データベースの活用イメージがついていない

ーー顧客データベースの具体的な活用イメージがつかないことも、経営層の理解を得られない原因のひとつでしょうか。

そうですね。経営層から「すでに、これまで蓄積した顧客データベースがあるでしょう」といわれるケースをよく見聞きします。しかしデータをただ蓄積しただけではダメで「データをどのように蓄積するか」が重要なんです。

顧客情報ひとつをとっても、表記揺れや誤表記が残ったまま大量に蓄積されると、データの精度は下がってしまいます。データの精度が下がったままだと、例えばお問い合わせいただいた企業が既存の顧客なのか新規の顧客なのか、ターゲット先なのか、ターゲット外なのかといった情報を基幹システムから確認しようとしても、必要な情報を得られないでしょう。

顧客データをただ蓄積してきただけで、実は活用できる状態ではないという課題感をよく聞きます

【対策】他社の成功事例やDXレポートを活用し、社内の理解を得る

ーー経営層の理解を得るにはどのように働きかけるのが良いでしょうか。

最近では、DX推進の実態に関する調査レポートや顧客データベース活用によって成果を出した企業のレポートなどが官民から多数出ています。経営層へツール導入などを提案する際に、これらの調査レポートを参考資料として活用するのは有効だと思います。

また先進的な取り組みを行う企業の事例を参考にするという方法もあります。

例えば当社のサービスを導入いただいている西松建設様は、コロナ禍以前から顧客データベース活用を進めており、建設業界内でも先進的な取り組みとして話題になりました。その成功事例を見た企業が「うちも同じ取り組みを行いたい」とご相談いただくことがあります。

現在は、先進的な企業のDX成功事例を見る機会も増えてきました。経営層へ、他社の具体的な取り組みを参考例として提示するのは効果的な方法だと思います。

先進企業が「どのように課題を解決したか」を参考にする

ーー成功事例を参考にする際のポイントはありますか。

自社と同じ業界の成功事例は活用イメージがつきやすいため、「業界軸」で事例を探し参考にするのがおすすめです。

また異なる業界であっても同じような課題感を持っている場合は、参考になることも多いため「課題軸」で情報収集するのも良いと思います。私も顧客に「課題軸」で見つけた事例をご紹介することがよくあります。

ーー企業規模によっても課題は異なるものでしょうか。

企業規模と顧客データの保有数はほぼ比例し、データ量の大小によって課題感も異なります。そのため自社と同規模の企業ほど共通の課題を持っているといえます。

事例を参考にする際は、その企業が「どのように課題を解決したか」という点も重要です。施策やツールをマネするのではなく、課題解決のための本質的な考え方を参考にするのが良いでしょう。

成功事例を持つ企業の担当者さんに直接話を聞いてみるのもおすすめです。当社のようなベンダーに問い合わせてみるという方法もあります。

ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅将史氏

【原因2】施策実行のPDCAをまわせていない

顧客データベース活用が進まない2つ目の原因は、マーケティング・営業活動における施策実行のPDCAをまわせていないことが挙げられます。

PDCAをまわせない原因のひとつは、施策の効果を分析できていないことです。BtoBビジネスではリードタイムが年単位に及ぶこともめずらしくなく、流入チャネルも多様であることから、リード創出から受注に至るまでの経路やチャネルの分析に課題を感じている企業が多い印象です。

また次のような課題があり、PDCAをまわせていないというケースもあるようです。

  • ツールの導入、活用が進まず営業活動が属人化している
  • マーケティング部、営業部の部門間連携ができていない
  • 部署ごとのKPIしか追っていない

獲得したリードがどのように受注につながったのか、どの施策が効果的だったのかを分析し施策の精度を上げるためにも、PDCAをまわす体制を構築することが重要です。

【対策】ツール導入と部門間連携強化によってPDCAをまわす

施策の効果を分析し精度を上げるためにも、まずはじめに顧客情報をデータとして蓄積できる、CRMなどのツールの導入をおすすめしています。

次にマーケティング部、営業部など部署ごとの目標達成に向け施策精度を上げるために、MAやSFAなどのツール導入を検討すると良いでしょう。またそれらのツールを連携して活用することを前提に導入を検討することも必要です。単一の部門課題を解決するためだけのツール導入では、データ活用が進まないことが多いためです。

ーーツール導入前に、PDCAサイクルや活用イメージを明確化すべきでしょうか。

理想は、ツール導入のタイミングで活用イメージをチームで共有し、運用体制を構築できると良いでしょう。ただ現実的には、ガチッと型を決めてから動くのは難しいと思います。運用しながらトライアンドエラーを繰り返し最適な体制を構築する、アジャイル的な運用でも良いのではないでしょうか。

定期的な情報共有によって部門間のすれ違いを防ぐ

ーーマーケティング部、営業部の連携不足という課題について、どのような対策が効果的でしょうか。

THE MODEL型の分業体制をしいている場合などは、部門をまたいで定期的に情報共有する必要があると思います。

部門間のすれ違いとして次のような声をよく聞きます。

  • マーケティング部ががんばってリードを獲得しても、営業部が動いてくれない
  • 営業部からすると、マーケティング部が獲得したリードの質が低く動けない

営業部が求めているリードとマーケティング部がつくるリードにギャップがあることで、すれ違いが起きている。それだけ部門間の情報共有が不足しているといえます。

部門間連携を強化するためにも、売上目標というひとつの目標に向けた認識統一を行い、必要な情報を部門間で共有し合うことが必要です。営業マネージャーが旗振り役として、受注に向けた営業活動状況や各部署に求める役割などについて、組織全体に情報発信できると良いと思います。

また各部門の成果を可視化するためにも、ツールで営業進捗のステータス管理を行うのがおすすめです。

【原因3】データレベルの連携ができないことで、現状分析できず戦略を立てられない

MAやSFAなどツール同士を連携しデータベースを一元的に管理していても、データレベルでの連携ができていないことで、データの精度が下がり正確な分析ができないというケースがよくあります。

例えば営業担当者がSFAに企業名を入力する際に、表記揺れや誤表記があると同一企業と認識されずに、誤った分析をしてしまう可能性があります。重複アカウントが発生することで特定の業種の売上が上がっているように見えるものの、実態とは乖離しているといった事が起きてしまいます。

分析精度が落ちることで、現状を正しく認識できず効果的な戦略を立てられないのです。

特に大手企業ほど複数のツールを導入しており、データベースがサイロ化していることで顧客データの分析精度が高められず、結果的に活用が進まないというケースが多いようです。

【対策】マスターデータマネジメントを導入しサイロ化を解消

データベースのサイロ化を防ぎデータ活用するには、マスターデータマネジメント(MDM)の導入によって、マスターデータを連携・統合するのがおすすめです。

当社が提供するLBCであれば、企業コードによってデータ管理することで、ターゲットとなる企業や人物を特定することも容易です。

企業コードで管理することで、表記揺れや誤表記によって複数アカウントが発生することを防ぎます。またSFAやMAそれぞれから入力された情報も一元管理し、リードがどのような経路をたどり受注に至ったか可視化できます。

例えば去年の12月1日に獲得したリードから4月1日に受注につながった、という企業の動きをひと続きの情報として可視化できます。

企業コード管理の図

効果的な戦略を立てるためにも、自社の現状を正しく分析することが重要です。現状分析にはデータの精度を上げることが欠かせません。

まずは市場全体を把握し、アプローチ先の優先順位をつけることからはじめる

ーー顧客データベース活用に向けて第一優先で取り組むべきことは何でしょうか。

BtoBビジネスにおいて第一優先に取り組むべきことは、自社がターゲットとする「市場」をきちんと把握することです。市場にどれだけのターゲット企業が存在するのか、網羅的な情報を把握できている企業は意外と少ない。

取引のある顧客の周りに見込み顧客が存在し、その周りには市場が広がっているものの、実際に企業が把握しているのはハウスリスト(自社が保有している企業データ)の範囲内であることが多いと思います。市場のなかにはまだ接触できていない見込み顧客が多く存在することを考えると、把握できていないのはもったいない

市場の図

市場全体を把握するには、法人データベースを活用すると良いでしょう。その市場のなかで「受注」につながりそうな企業を絞り込み、優先順位をつけることが重要です。自社の売上目標や戦略、製品特徴などをデータと照らし合わせて絞ることで、効率的な営業活動につながると思います。

受注につながる企業を定性・定量の両面で把握する

ーー優先度をつけるためにも、現在の顧客データベースを精度高く分析することが大切ということでしょうか。

そうですね。分析の精度はもちろん、受注につながる企業の傾向や属性を定性・定量の両面から把握できると良いと思います。

各営業担当者が把握する範囲は意外と狭い。市場全体を網羅的に把握し、定量的なデータとともに傾向を説明できる営業担当者は少ないでしょう。ひとりあたりの行動量や知識量から得られる情報には限りがあるため、顧客データベースを分析・活用し必要な情報を導き出す必要があります。

営業担当者の“感覚”を大切にしつつ、定量的に見ることでさらに営業の可能性が広がるはずです。

ユーソナー株式会社 営業本部 DXグループ 執行役員 湯浅将史氏

DXを推進するには根気強く続ける「覚悟」も必要

ーーこれから顧客データベース活用を進めたいと考える方へ向けてメッセージをお願いします。

顧客データベース活用のはじめの一歩は、「データを活用して何を実現したいのか」を明確にすることからスタートしましょう。例えば「売り上げを上げたい」「利益を上げたい」「お客数を増やしたい」というレベルでも良いと思います。

目的を明確にすることで、どのような情報が必要となるかが明確になり、収集すべき情報の精度が上がります

「DX」というキーワードで情報収集すると、範囲が広すぎどこからはじめれば良いか分からない。DXで「何を実現したいか」をセカンドキーワードに設定することで取り組むべきことが見えてくるでしょう。

またDXの取り組みは、スタートしてすぐに成果が出ることは少ない。日々、施策実行のPDCAをまわしトライアンドエラーを繰り返しながら根気強く推進することが大切だと思います。DX担当者の方は「継続していく覚悟が必要です」とよくおっしゃられています。

すぐに成果につながらなくともプロジェクトを進めていく「覚悟」も必要だと思います。当社も覚悟をもってとことんお付き合いしています(笑)。

ーーありがとうございました!


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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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