インタビュー
米企業のOpenAIが開発したAIチャットサービス「ChatGPT」より、「Webブラウジング機能」が多数のプラグインと同時に発表されました。多くの仕事に多大な影響と変化を与えるといわれている「ChatGPT」ですが、今回のWebブラウジング機能とは、どのようなもので、実際にどのように活用できるのでしょうか。
株式会社ウィットの代表取締役・渥美英紀氏に「ChatGPT Webブラウジング機能のBtoBマーケでの活用可能性」についてお話しいただきました。渥美氏は15年以上にわたってBtoBマーケティングに関する研究やコンサルティングに従事されています。ChatGPTのBtoBマーケティング活用についてもいち早く注目し、独自に研究を進められてきました。
前編・後編に分け、Webブラウジング機能の活用方法だけでなく、実際に使ってみた出力結果を含め解説いただいています。
※米OpenAIは7月3日(現地時間)、Webブラウジング機能「Browse with Bing」を一時的に無効化することを発表しました。続報をお待ちください。
ーーChatGP Webブラウジング機能とはどのような機能なのでしょうか。
これまでは学習されていた2021年9月までのデータを基に、そこから推測される文章を出力するというのが前提でした。
今回のWebブラウジング機能では、簡単にまとめると以下の動作ができるようになりました。
現在Web上で公開されている情報がすべて学習対象になるということです。色々な可能性が広がってきていると考えられます。
ーーChatGPT Webブラウジング機能で現時点でできることを教えてください。
Webブラウジング機能の最大の特徴は、Webサイト内の情報の検索と読み取りができることです。実際に試しましたが、会社情報のURLから指定の情報の抽出に成功しました。また特にURLを入力しなくても、以下のような利用方法も考えられます。
これらは一例ですがさまざまな利用方法がでてくるでしょう。
ただし今回リリースされたWebブラウジング機能はまだベータ版ですので、すべての動作が完璧とはいえません。しかしながら現時点でも可能性を感じています。
ーーChatGPT Webブラウジング機能利用にあたっての注意点はありますか。
まずWebブラウジング機能を使用するには有料版に契約する必要があります。また利用を申し込んでからも、使えるようになるまでに現段階では5営業日から10営業日くらいかかっています。
さらに現状の注意点としてはスピードの問題も挙げられるでしょう。ChatGPTに指示を入力し、ブラウジングを開始してから回答がでるまでにそれなりの時間が必要です。これまでのChatGPTの回答速度に慣れている方にとっては、かなり遅いと感じると思います。
また今回のリリースはまだベータ版であるため、少し正確性や安定性に問題があるようです。例えばチャット中に「急に日本語から英語への回答に変わる」「同じリクエストを2回作業する」などの誤作動もあります。また再度読み込みをすると回答や評価が変わる現象も起きています。
あとはGPTからの出力量が多い場合、出力された内容に対してGPTとの会話が継続しにくいことが挙げられます。これまではメールで使うための文章を1回出力させた後に、「続きを出して」と指示すると、そのままメールの文章の続きが出力されていました。これが出力させたメールの文章量が多い場合、ブラウジングモードではもう一度ブラウジングを始めてしまいます。
さらにプロンプトの中に分かりづらい文章があると、そちらの文言の検索を開始することもあります。プロンプトの中で指示をしていない予期していない動作が始まることがありますので、プロンプトの書き方などに慣れが必要になるでしょう。
主な注意点をまとめると以下の3つです。
しかしながら上記の点が改善されるのもそう遠くないでしょう。
ーーではWebブラウジング機能の具体的な活用方法を教えていただけますか。
現時点では、以下の3つの活用方法が考えられます。
1つ目が特にWebマーケティングの施策実行において、皆様も実施されるだろう競合調査。
それから2つ目に営業先のお客様の情報調査。
最後に運用されているWebサイトの調査改善方針の提案、などでChatGPT-4のWebブラウジング機能が使えそうだと思っています。
ーー1つ目の「競合調査」では何ができそうですか。
競合調査と一口に言っても、おそらく各社によって特にSEO上の競合を見たい、Webサイトのコンテンツそのものを見たい、訴求軸を見たいなどさまざまなニーズがあるでしょう。
こういった比較基準をプロンプトそのものに埋め込んでいくことで、一定の基準で複数のWebサイトからの情報を比較できるようになると思います。
例えばSEOであればE-E-A-Tなど評価軸を決めスコアの定義をする、コンテンツであれば記事の定義を明確にし、スコアの付け方をプロンプト内に書くようにすると、利用者の必要とする情報を出力させることができます。プロンプトの工夫により一定の基準で大量の情報を比較しスコアリングすることで、競合調査の手間を削減する、業務効率化することができるでしょう。
ーー実際に「競合調査」においてWebブラウジング機能はどのように使えますか。
競合調査の一環で、競合他社のWebサイトを分析・比較する際の点数による評価の自動化ができると考えています。実際に複数のWebサイトで試してみていますが、今回は当社のWebサイトを使って紹介してみましょう。ChatGPT-4を起動させると最初に「Webブラウジングwith Bing」という画面が出てきます。こちらを選択し、続けてプロンプトを入力していきます。
まず、対象のURLを記入します。その次に「このWebサイトを3つの視点から点数をつけて」という指示を書きました。今回の分析の視点は以下の3つです。
プロンプトは以下のように記入しました。さらに「0から5の点数の幅での評価」をGPT-4にお願いしています。
#ブラウジング対象のURL
https://www.wit-inc.jp/
#指示
このWebサイトを以下の3つの視点から点数をつけて
#視点の定義
・キャッチコピーが魅力的かという視点
0~5(0が全く魅力的ではない、3が平凡、5が非常に魅力的)
・事例の掲載が豊富であるかという視点
0~5(0が掲載がない、3が3件以上掲載、5が3件以上掲載で内容が充実)
・ニュースが新しいかどうかという視点
0~5(0が1年以上古い、5が1週間以内で新しい)
#出力形式
スコア、視点、根拠を表組でだして
記入例のプロンプトのように各点数における評価基準を具体的に追記すると、より評価が安定します。最後に「出力形式」を「視点、スコア、根拠を表組みで出して」指示し、ブラウジングさせました。
「競合調査」にはさまざまな視点があるでしょう。今回は3つの視点を使いましたが、営業現場の皆さんは常日頃クライアントさんや現場の状況にあわせて、競合調査をし提案書を書いていると思います。またBtoBマーケターの方も同様に場面ごとの必要に応じて、競合調査を行っているのではないでしょうか。
業種や役割が違っても、各々に必要な分析の観点や視点をプロンプト内にきちんと明記することで、どのような競合調査でも比較的使えるのではないかと思います。
ーー先程の調査結果を教えていただけますか。
当社のWebサイトはキャッチコピーが魅力的だと思っているのですが、4点という結果でした。
「独自性や創造性が際立っているわけではないため、最高評価には至りません」と評価されています。
「事例の掲載」に関しても最高評価ではありませんが、具体的な評価内容が出力されています。また画像を見ると分かるように、評価はシンプルで分かりやすい内容です。
3つめの「ニュース」に関しては「1週間以内の更新なので最高評価をつけます」と評価されています。しかし実際は1週間以上前のものが最新と評価されているようです。このようなエラーは今日の日付を伝え、例えばこの場合は3.5ではないか、と会話を続けることで改善されます。
今日の日付を入力してみると、Webサイトが再評価され点数が改善されました。「ニュース」の点数だけでなく「キャッチコピー」「事例の掲載」も点数が変更されています。ちなみに今回のように再度読み込ませると、評価が変わることがあります。さらにWebサイトの改善案を聞いてみましょう。
上記のように、5点評価のキャッチコピーも含め改善案が提示されました。
ーー競合調査でWebブラウジング利用のメリットは何があるでしょう。
特にコンサルティング会社やWebマーケティング会社などは、一気に短期間で大量のお客様の情報を調査しなければいけない場合があるでしょう。大事な調査ですが、個人的に単純な調査作業を繰り返すのは大変だと感じます。このような大量の情報を収集、調査し評価するというようなシーンでの単純作業を効率化し工数削減するのに役立つといえそうです。
他にもプロンプトを工夫することで以下のような情報を得られます。
また抽出された情報を起点に、さらに会話を続けられます。「それぞれの視点について改善案を考えてくれ」と追加でリクエストすると、それに対し良い改善案を出してくれる可能性もあります。
プロンプト入力の際に指示を明確にし評価軸や定義を具体的にすることでアウトプットの精度が上がります。そのアウトプットに対してさらに改善案を出させることで内容をブラッシュアップできるでしょう。
ーー新規案件受注時などのスピーディーな調査が求められる時に活用できそうですね。
そうですね。時間がない初期商談の時などに利用してみると良いでしょう。最初の会話の糸口や、たくさんのことを同時にしなければならない場合など、十分使えそうな可能性があります。
しかし正確性が問われる調査には、まだGPT-4だけに頼るのは難しいともいえます。
ーー今のうちに準備すべきことはありますか。
今後、Webブラウジング機能がより速く正確になっていくことを想定すると、活用可能性の高いプロンプトを多数用意しておき社内で共有しておくと良いでしょう。業務に生かせるプロンプト例を用意するには実践を通して試行錯誤しブラッシュアップする必要があります。Webブラウジング機能の精度が高まり、必要な調査で使えるレベルに達したときに、いち早く使える体制を作っておくことが重要です。
例えば競合調査の場合には次のステップが考えられます。
「Webサイト上から必要な情報を抽出するために最適なプロンプトは何か」を早めに調査、検証しナレッジを蓄積しておくと良いのではないでしょうか。
ーーWEbサイト調査の際の注意点はありますか。
GPT-4で得られる情報は、まだ正確性や安定性が十分ではないということです。実際に人間で比較テストをするときも、評価は複数人の人間で実行し平均値を取るということをしますよね。現時点でのWebブラウジング機能での競合調査も、何回か行い平均値を取ると良いでしょう。まだすべて完璧な指標ではないということです。先程の当社の例でも、再度検証をさせると評価が変更されました。
ただし「事例がない」など明らかに評価が下がるような場合は、0点や1点という結果が出ます。大きな枠組みでの比較を簡易的にできるということは間違いではないでしょう。
ーー 比較対象として弊社が運営するWebサイトの評価をお願いします。
先程と同じプロンプトで出力させてみます。
結果は以下の通りです。「キャッチコピー」は3点となっております。根拠としては他のマーケティング会社と差別化があまりできていないといわれています。
ーーChatGPT-4で検証したWebサイトの改善案を出してもらえますか。
改善点を先程と同じように出力してもらいましょう。
提示されている問題点のように「差別化ができていない」というのは、多くの企業さまで出てくる問題です。例えばSEOだけを行っているようなサービス内容の特化した企業さまでは、キャッチコピーを作りやすいと思います。
今回検証したWebサイトの内容から考えると、より魅力的にするためには差別化の強調が必要です。総合力やワンストップをPRするには、現在のキーワードだけでは難しいでしょう。
ちなみにGPT-4は「デジタル革新でBtoB企業の成長をリードする」というコピーを提案してくれています。
ーー最後に「Webブラウジング機能のマーケ現場での活用可能性」について感想をお聞かせいただけますか。
ChatGPT-4は現段階では正確性や安定性の問題があります。また今回調べた3つのポイントは比較的分かりやすく、皆さんに共通する簡易的な視点で解説しました。このためご紹介した方法が即実践で使えるかというとまだ難しいかもしれません。しかしながらプロンプトを工夫することで、ある程度の点数付けやWebサイト間の比較ができる可能性を示せたと思います。
またベータ版の期間は、GPT-3.5と組み合わせて活用するのが良さそうです。実験段階ではありますが、自社の実績や強みになる情報を集めておき、それを基にGPT-3.5に「訴求ポイントにしてコピーを作れ」といえばそれなりの結果が得られています。今回はGPT-3.5は使わず、新しいWebブラウジング機能だけを利用した方法を紹介しています。しかし実践的に活用していくのであれば、GPT-3.5との相互利用も1つの方法でしょう。
GPT-4に期待したいのは以下の2点です。
まだ難しいとは思いますが、そう遠くない未来に実現すると思いますので、実現されたらと考えると大きな可能性を感じます。
インタビューの内容は動画でもご覧いただけます。
次回の記事では、さらに実際にChatGPT Webブラウジング機能をBtoBマーケティング担当者の立場で使ってみた場合の例についてお話しいただきます。
渥美英紀(あつみ・ひでのり)
株式会社ウィット代表取締役。BtoBのさまざまな業界の売上アップ・ブランド強化・営業改善など250以上のプロジェクトを担当。特にリード獲得や売上アップに高い成功確率を誇る。著書に、自身のノウハウをまとめた「ウェブ営業力」(翔泳社、2009)、 「Webマーケティング基礎講座」(翔泳社、2011)がある。2017年には「BtoBウェブマーケティングの新しい教科書」(翔泳社)を上梓。アクセスログ解析システム、メール配信システムなどの開発も手掛けたことから、ウェブマーケ ティングの遂行に不可欠かつ広範囲な分野について専門性を生かした"総合的"かつ"現場に根差した"ウェブマーケティング支援を得意とする。
ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング(株式会社ウィット)
note:ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング