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カスタマージャーニーマップとは?目的や作り方を解説【テンプレート・事例付き】

カスタマージャーニーマップとは?目的や作り方を解説【テンプレート・事例付き】

カスタマージャーニーマップの作成は顧客理解を深め、販売戦略のベースを作る上で重要な工程です。しかし馴染みがない方は、「そもそも何が書かれているものなのか」「どのように作れば良いのか」など疑問が多いでしょう。

本記事ではカスタマージャーニーマップの目的や、テンプレートを使った作り方について解説します。役立つシーンや作成時の注意点はもちろん、企業での活用事例もあわせて紹介しています。ぜひ参考にしてください。

目次

1.カスタマージャーニーマップとは?

まずはカスタマージャーニーマップの基礎知識として、以下の2つを解説します。

  • カスタマージャーニーマップの意味
  • 作成する2つの目的

意味は「ユーザーの行動や心理の変化を可視化した図」

カスタマージャーニーマップ(英語表記:customer journey map)は、ユーザーの行動や心理の変化を可視化した図です。そもそもカスタマージャーニーとは、ユーザーが自社製品・サービスを知って購入や利用に至るまで、あるいはリピートの意思決定をするまでといった体験を1つの「旅」として表現することを指します。

カスタマージャーニーマップ(BtoB事業)の例
カスタマージャーニーマップ(BtoB事業)の例

例えば上図のカスタマージャーニーマップでは、「課題意識」のステージで「この企業の製品なら、〇〇という課題を解決できるかもしれない」とユーザーは製品を認知して喜びを感じています。しかし次に訪れる「情報収集」「比較・検討」のステージで、「複数社の見積もりを取ったけど、どれが一番良いか、いまいち分からない」「そろそろ上司に報告しなきゃいけないのに」とフラストレーションを感じています。

以上のように、検討段階によって感情が変遷するユーザーを購入にまでつなげるためには、ユーザーの感情の変遷や状況に応じてステージ別に異なるアプローチを取る必要があるのです。上図では、「情報収集」ステージの対応策としてデモ提案が、「比較・検討」のステージの対応策として競合との比較資料提示などが挙げられています。こうしたステージ別のアプローチを可視化・整理する上で、カスタマージャーニーマップが役に立ちます。

ユーザーの検討段階に合わせて適切なアプローチを実施しやすくなるため、成約数の増加や売上拡大を図る上でカスタマージャーニーマップの作成は必須の工程といえるでしょう。

作成の目的は2つある

カスタマージャーニーマップの目的は、主に以下の2つです。

  • ユーザーの行動を可視化し戦略のベースにする
  • チームや社外パートナーとの認識のズレを防ぐ

ユーザーの行動を可視化し戦略のベースにする

カスタマージャーニーマップはユーザーの行動を可視化できるため、マーケティング戦略設計の土台になります。

ユーザーの行動や感情の変化について可視化すれば、ユーザー視点に立って自社製品・サービスが購入されるまでの流れを俯瞰でき、下記のポイントについても整理できるため最適な媒体やコミュニケーション方法を選定できます。

【カスタマージャーニーマップで整理できること】

  • どこに課題があるか
  • 何が行動や感情の変化を引き起こすのか
  • どのような解決策があるか など

施策の優先順位も付けやすくなり、予算やリソースが限られたなかでも効果的な戦略を打ち出せるようになるでしょう。

チームや社外パートナーとの認識のズレを防ぐ

カスタマージャーニーマップは、チームや社外パートナーと共通認識を持つ上で役立ちます。各所で認識のズレがあると、施策の一貫性が失われてしまい思うような成果を出せません。

例えばマーケティングチーム内でカスタマージャーニーマップが作成・共有されていない場合、メンバーが担当する個々の施策について目標達成のみを求めて動き、結果として施策全体にブレが生じる可能性があります。また営業部門や外部の代理店など、マーケティングチーム外との連携にも支障をきたします。

組織間のコミュニケーションコストや費用・時間のロスを極力減らし、効率的かつ効果的な戦略を実行する上でもカスタマージャーニーマップの作成は重要な工程といえるでしょう。

2.カスタマージャーニーマップの作成に必要な3つの準備

カスタマージャーニーマップの作成に必要な準備は、以下の3つです。

  • 定量/定性調査
  • ペルソナの設定
  • 共感マップの作成

定量/定性調査

カスタマージャーニーマップの作成では、定量調査や定性調査が必要になります。調査をせずに仮説だけで作成すると、実情と乖離したカスタマージャーニーマップができ上がってしまうためです。すると説得力が欠けてしまうだけではなく、メンバーによって良くも悪くも作り替えられてしまい、認識の統一が難しくなります。

なお各調査の具体的な方法は、下表の通りです。

定量調査アンケート、アクセス解析など
定性調査ユーザーインタビュー、フィールド調査、競合分析など

一般的には既存の定量/定性データから仮説を立て、新たに定性調査を進めるなかで仮説を検証する流れで作成します。定性調査の1つであるユーザーインタビューのやり方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。

関連記事:【3ステップ】ユーザーインタビューのやり方|目的や種類から成功させるコツまで解説

ペルソナの設定

カスタマージャーニーマップの作成では、あらかじめ定めたペルソナを踏まえて行動や心理を書き出していきます。ペルソナとは実在してもおかしくないようなレベルにまでイメージを掘り下げた自社製品・サービスの代表的なユーザー像です。基本情報のほか、行動パターンなどの情報をまとめます。

BtoC事業のペルソナ
BtoC事業のペルソナ
BtoB事業のペルソナ
BtoB事業のペルソナの場合は会社情報も用意する

特に新規事業はペルソナを検討する際の情報が少ないため、前述の定量/定性調査を入念に行い、ユーザー像を具体化していきましょう。どうしても実際のデータが得られない場合は、簡易的なペルソナを設定してからブラッシュアップしていくのも1つの方法です。

ペルソナの作り方やコツを知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。

関連記事:ペルソナの作り方とは?徹底解説【無料設定シートダウンロード】

共感マップの作成

ペルソナの作成とともに準備したいのが、共感マップです。共感マップとは、ペルソナの視点で感情や行動を整理・可視化した図であり、ニーズの発見を手助けしてくれます。共感マップの基本要素は、以下の6つです。

共感マップの基本要素 意味
【1】 See ペルソナが見ているもの
【2】 Hear ペルソナが聞いていること
【3】 Think and Feel ペルソナが考えていること・感じていること
【4】 Say and Do ペルソナの発言や行動
【5】 Pain ペルソナの痛みやストレス
【6】 Gain ペルソナが得られるもの・欲しいもの
共感マップ
共感マップ

マップ上部の【1】~【4】から、下部の【5】【6】を導き出すフレームワークとなっています。共感マップを書き出すことでペルソナの内面をより深掘りでき、より現実味のあるカスタマージャーニーマップを作成できるでしょう。

3.【テンプレート付き】カスタマージャーニーマップの作り方

カスタマージャーニーマップは「現状」の整理から課題を抽出するものと、「理想の体験」を描き出してアイデアを出そうとするものがあるため、自社の状況に合わせて選択する必要があります。

カスタマージャーニーマップ作成にあたっては、自社製品・サービスとのタッチポイント(接点)を時系列かつ包括的にとらえ、アプローチのタイミングや方向性を整理します。具体的なレイアウトは、以下の通りです。

記載位置 記載する内容 記載項目の例
横軸 ユーザーがたどるプロセス 無関心→課題意識→情報収集→比較・検討→購入→利用
縦軸 分析項目 ・導入までの流れ
・行動
・感情の変化
・タッチポイント
・対応策(チャネル) など

また作成時は担当者1人ではなく、3〜4人のチームメンバーでディスカッションしながら取り組むことで、客観性が高く取りこぼしの少ないカスタマージャーニーマップを作成できます。具体的な作り方の手順は、以下の4ステップです。

  • 【ステップ1】行動を段階(ステージ)別に整理する
  • 【ステップ2】感情・タッチポイントを記入する
  • 【ステップ3】課題を抽出する
  • 【ステップ4】対応策を検討する

なお下図のようなテンプレートを活用したい方は、「BtoBのためのカスタマージャーニーマップ【無料テンプレダウンロード】ペルソナ記入方法付き」からダウンロードしましょう。

カスタマージャーニーマップのテンプレート

【ステップ1】行動を段階(ステージ)別に整理する

まずは準備したペルソナを踏まえて、カスタマージャーニーマップの横軸である段階(ステージ)と、各行動を書き出します。BtoB企業の製品・サービスを例にすると、以下のような段階が想定されます。

  • 無関心
  • 認知
  • 興味・関心
  • 比較・検討
  • 購入
  • 利用 など

ただし製品・サービスの種類やゴールによって、整理すべき段階は異なります。例えばアプリの場合、使い続けてもらう必要があるため「継続」といったステップが入ってくるでしょう。リピートがゴールの場合は、1つ目の段階が「購入後」になるケースもあります。

また行動を整理する際は、顧客視点が大切です。定量/定性調査で得た情報を踏まえつつ、行動のタイミングや内容を洗い出していきましょう。

カスタマ―ジャーニーマップ(ステージ・行動を埋めた例)

【ステップ2】感情・タッチポイントを記入する

ペルソナの行動を整理したあとは、そのときどきに感じるであろう感情や自社施策とのタッチポイントを記入します。感情はポジティブ・ネガティブ双方を書き出した上で、曲線としてつなげると変遷が視覚的に分かり、改善ポイントを発見しやすくなります。

またタッチポイントを整理する際は現状のあるがままを記入し、「このような接点を持ちたい」という理想とは切り離して考えることが大切です。場合によっては、【ステップ1】における行動の書き出しと並行すると整理しやすいため、臨機応変に対応しましょう。

カスタマ―ジャーニーマップ(感情・タッチポイントを埋めた例)

【ステップ3】課題を抽出する

現状を把握できたあとは、各ステージにおいて考えられる課題を抽出します。主なチェックポイントは、以下の2つです。

  • ペルソナの行動と施策がマッチしていないところはないか
  • ペルソナの感情の後押しが足りていないところはないか

抽出されたポイントは、次項の対応策を検討する際の土台となります。

カスタマ―ジャーニーマップ(課題を埋めた例)

【ステップ4】対応策を検討する

最後は課題の解決に向けた施策を洗い出し、絞り込む工程です。メンバー間や部署間で認識のズレが生じないよう、対応策については全員が納得できるまで議論を続けましょう。対応の例としては施策の種類や方向性を変えるほか、予算やリソースを割ける場合は新たな施策を追加するケースもあります。

カスタマ―ジャーニーマップ(対応策を埋めて完成した例)

一旦マップを仕上げて視覚的に見やすい形へ整えたあとに、対応策を議論するのも1つの方法です。BtoBに特化したカスタマージャーニーマップの作り方はこちらの記事でも解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

関連記事:BtoBにおけるカスタマージャーニーマップとは?【無料テンプレ配布中】ペルソナ記入方法付き

4.カスタマージャーニーマップ作成時の注意点

ここではカスタマージャーニーマップ作成時によくある失敗を踏まえながら、3つの注意点を解説します。

  • 企業側の視点や憶測で作らない
  • はじめから完璧を目指さない
  • KPIを設けて定期的に見直す

企業側の視点や憶測で作らない

カスタマージャーニーマップを作成する際は、企業側の視点や憶測で作らないようにしましょう。よくある失敗として挙げられるのは担当者の希望などが反映され、実情に合わないカスタマージャーニーマップが完成するケースです。

企業視点が多いのは、事前準備の定量/定性調査が不足しているために起きます。顧客視点が意識されていないカスタマージャーニーマップでは重要なタッチポイントが抜け落ち、効果的な施策運用が難しくなります。

カスタマージャーニーマップを作成する際は一貫して顧客視点を意識し、必要に応じて追加調査をするなど根拠となる情報を入念に収集しましょう。

はじめから完璧を目指さない

カスタマージャーニーマップの作成時は、はじめから完璧を目指さないことも大切です。よくある失敗として、ペルソナを作り込みすぎたあまり、アプローチできる層が限定的になるケースが挙げられます。

ペルソナのディテールを上げることは顧客理解を進める上で不可欠ですが、具体的すぎると逆に運用しにくくなる場合があります。ターゲットを狭めていないか、機会損失につながらないか適宜振り返りながら作成を進めましょう。

なお状況にあわせて複数のペルソナを作成している場合、1つのカスタマージャーニーマップでまとめようとすると内容がかみ合わず精度も落ちてしまいます。手間はかかりますが、複数のペルソナがいる場合はそれぞれ別のカスタマージャーニーマップを作成しましょう。

KPIを設けて定期的に見直す

カスタマージャーニーマップの作成時は、KPIを設けて定期的に見直しましょう。作成に達成感を覚え、実際の行動に反映できていないケースがよくあるためです。

具体的には各施策のKPIを明確に定めた上で定期的にチェックし、効果測定の結果に応じて見直しをかけます。特に新たなデバイスや技術の普及など、外部環境の変化はタッチポイントや顧客の心理に大きく影響するため特にチェックすべきポイントです。

例えばパンデミックによる行動制限は、タッチポイントを実店舗からECサイトへ変化させる要因となりました。環境の変化があった場合は必要に応じて最適化を図り、成果の維持・向上につなげましょう。KPIの基礎知識や設定方法について知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。

関連記事:KGIとKPIの違いは?設定方法や目標達成のポイントも解説

5.カスタマージャーニーマップが役立つシーン

カスタマージャーニーマップが役立つシーンは、主に以下の2つです。

  • コンテンツマーケティング
  • UI/UX改善

コンテンツマーケティング

カスタマージャーニーマップが役立つシーンの1つが、コンテンツマーケティングです。ユーザーに対して有益なコンテンツを継続的に提示して接点の創出・維持を図る手法であり、主に以下を検討する際に役立ちます。

  • コンテンツの種類
  • 内容
  • ターゲット
  • 発信方法
  • タイミング など

カスタマージャーニーマップを作成することで現状の施策について整理でき、ユーザーが必要としている情報も取捨選択しやすくなるでしょう。コンテンツマーケティングの基礎知識ややり方について知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。

関連記事:コンテンツマーケティングとは?基本・実施の手順・成功事例まで分かりやすく解説

UI/UX改善

カスタマージャーニーマップは、UI/UX(※1)改善にも役立ちます。顧客視点でプロダクトの使用プロセスを整理する分、ユーザーのニーズや課題の理解が進み、より快適な体験を提供できるようになるためです。

※UI=ユーザーとの接点(ボタンなど)、UX=ユーザー体験(使いやすいなど)

特にユーザーが不満や不安を感じるポイントの抽出、改善案の検討などUI/UXの戦略設計で役立ちます。UI/UXの改善方法や具体的な手法について知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。

関連記事:UI/UXの改善方法とは?成功させるポイントから役立つ思考法まで解説

6.カスタマージャーニーマップの活用事例

最後にカスタマージャーニーマップの活用事例を2つ紹介します。

  • 株式会社三井住友銀行
  • Japan Digital Design株式会社

株式会社三井住友銀行

株式会社三井住友銀行は、「最高の信頼を通じて、お客さま・社会とともに発展するグローバルソリューションプロバイダー」をビジョンとして掲げる金融機関です。各プロジェクトで顧客体験をデザインしていたものの、似たようなサービスの競合が課題でした。

そこでカスタマージャーニーマップを通じて、サービス全体の顧客体験をデザインすることになります。具体的には以下のような流れで、プロジェクトを階層立てて管理しました。

  1. 最上流にビジョンを据える
  2. ビジョンを実現するためのデジタル戦略としてコンセプトを決定する
  3. オンライン・オフラインのタッチポイントを軸に、ビジネスジャーニーマップを策定する
  4. 個々のプロジェクトで利用する具体性の高いカスタマージャーニーマップを作成する
  5. 画面レベルで作成するUXフローへ落とし込む

結果として部署間の対話が活発化し、共通認識のもとでプロジェクトの企画・進行が進むようになってきているとのことです。

Japan Digital Design株式会社

Japan Digital Design株式会社(JDD)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の戦略子会社です。AIやCXなどを組み合わせて、MUFGを利用する顧客の金融体験や事業環境のアップデートを図っています。

JDDがカスタマージャーニーマップを利用したのは、MUFGへのソリューション提供を主軸とした経営方針の転換時です。サイトリニューアルに伴ってリブランディングするとともに採用活動を強化すべく、以下の流れで必要なコンテンツの洗い出しと優先度付けを行いました。

  1. 採用担当者へヒアリング
  2. 共感マップにおけるPainの洗い出し
  3. カスタマージャーニーマップの作成
  4. サイトマップやコンテンツの制作
  5. デザインの検討
  6. 実装
  7. アンケートの実施
  8. リリース

今後は社内アンケートやアクセス解析などを踏まえて定期的に効果測定しながら、適宜アップデートしていく予定とのことです。

7.まとめ

カスタマージャーニーマップではユーザーの行動や感情を可視化するため、戦略立案のベースや関係者間の認識統一に役立てられます。精度の高いマップに仕上げるには、さまざまな調査やペルソナ・共感マップの作成を踏まえて、顧客視点で情報を整理する姿勢が大切です。

またカスタマージャーニーマップは、コンテンツマーケティングやUI/UX改善にも役立ちます。マップを作成・共有することで施策に一貫性が生まれ、限られた予算やリソースの中でも成果を上げやすくなります。

顧客視点の販売戦略によって売上を拡大したい方は、カスタマージャーニーマップを作成しましょう。


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この記事を書いた人

野坂 早希
野坂 早希 | ライター

文章での価値創出に関心があり、製造業から転身後、BeMARKE編集部でBtoBマーケティングを専門に年間およそ70本の記事執筆・編集を担当。「読者に分かりやすく品質の高い記事を届けること」をモットーに日々制作に励んでいる。

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