インタビュー

営業DXで年間約1億円の売上を達成!梅乃宿酒造はどのように営業DXを進めたのか?

営業DXで年間約1億円の売上を達成!梅乃宿酒造はどのように営業DXを進めたのか?

営業DX推進によって成長を続ける企業に、実際の取組みや課題感、成果についてお聞きする本企画。

今回は、営業DXを推進することで年間約1億円の売上につなげたという梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長の吉見晃宏氏に詳しいお話を伺いました。

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  • 梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見 晃宏(よしみ・てるひろ)

    梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長

    吉見 晃宏(よしみ・てるひろ)

    大学卒業後、メガバンクグループのクレジットカード会社に20年勤務し、コールセンター、債権回収、個人・法人営業等幅広く経験。2022年4月に梅乃宿酒造株式会社に入社。営業部課長として、コロナ禍から回復基調にあった売り上げを確かなものにするべく、新規販路拡大に尽力。現在は2023年4月に新設された物流部課長として、主に受注から出荷までのデジタル化を柱とした業務効率化を推進中。

目次

売上を回復させるため、営業の属人化解消が急務に

ーー営業DXに取り組まれたのはどのようなきっかけがあったのでしょうか。

私が梅乃宿酒造に入社した2022年4月は、コロナ禍により下がった売上を回復させていこうというタイミングでした。しかし新たな取り組みによって状況を打破しなければならないことは分かっていても、何をどこからはじめれば良いか分からず手探りの状態でした。

まず私は、売上を回復させるための営業戦略を練るために営業メンバーと対話を重ねました。そこで多くのメンバーと話をするなかで、営業活動の大部分が属人化していることに気づきました。お客様情報の管理や引き継ぎに関して、担当者しか分からないというケースが頻発していたんですね。

また当時は、業務のデジタル化も進んでおらずツールを使いこなせる人材も少ないという状況でした。私の前職では業務のデジタル化が進んでおり、お客様情報の管理や営業活動にSFAやMAの活用も進んでいたため、酒類業界のアナログさに驚くと同時に変革の必要性を感じました。

業務効率化という点でも、既存のお客様へのアプローチやフォローに工数がかかっており戦略のための時間を確保できていないことも課題でした。

このまま、アナログな属人化した営業活動を続けていると、ビジネス機会の損失につながると危機感を抱いたのが営業DXに取り組むきっかけです。

梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見晃宏氏
梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見晃宏氏

新規のお客様へのアプローチが必須だがツテがない

売上を回復させるためには、既存のお客様との契約だけではなく新規契約を増やす必要がありました

これまでの取引先は“町の酒屋さん”が多数を占めていました。また日本国内の人口減少や、コロナ前から進むお酒離れなど社会的な背景からも、既存の契約だけでは大幅に売上を回復させることは難しい。売上目標を達成するには、量販店や業務用の酒屋さんなど大手企業との取り引きが必須だと考えました。

しかしアプローチをするにもまったくツテがない状態でした。そこでまずは名刺管理ツールのSansanを導入し、これまで接点を持ったお客様の名刺情報をデータ化し可視化することで、大手企業へのアプローチにつながるヒントを探すことにしました。

営業DXはじめの一歩は、経営陣の理解を得ることから

ツール導入の必要性を社長に直談判

ーーツール導入にあたって、どのようなステップで進められたのでしょうか。

名刺管理ツールの導入にあたっては、私は社長に直接話をした方が早いと感じ、直談判しました。なぜなら社長が持つ名刺の数が最も多く、ビジネスにつながるケースが多いためです。

ただ社長が膨大な数の名刺情報を手作業で入力していくというのは非現実的です。社長の人脈を可視化し、ビジネスに生かすためにもツールの活用が必要だと訴えました。

営業DX推進に関して、現場から声を上げる場合にはそれなりの勇気が必要かもしれませんが、停滞した状況を打破するためにも「まずは一歩踏み出してみる」ということが大切だと思います。

梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見晃宏氏

経営陣に対して、費用対効果を示すことの難しさ

ーー話を進めるなかでどのような課題がありましたか。

実際にツール導入を進める際には、はじめに経営陣の理解を得ることに苦労しました。経営陣からは費用対効果を示すことを求められ、承認を得るまでが大変でした。

会社としては、ツール導入の採算が取れるだけではなく「どれだけ利益を生み出せるか」が重要であるため、納得してもらうための説明が難しかったですね。

費用対効果は、実際にツールを導入し運用してみないと具体的な数値を出しづらい。そのため数年後の売上計画に対してどれだけ新規のお客様を獲得する必要があり、そのアプローチのためにお客様情報の整理が必要だ、という流れで説得を続けました。

「絶対に売上を上げます」と断言

売上を伸ばすには、これまでの属人的な営業スタイルでは限界があります。「チーム・梅乃宿酒造」として営業するには、名刺情報を個人の資産ではなく会社の資産として可視化し共有する必要があり、ツール導入によって効率化できると伝えました。

最後は「ツールを導入することで新規顧客を開拓し、絶対に売上を上げます」と断言することで承諾を得ました。ここまで言い切ったあとは、目標達成のためにひたすら営業するだけ、そんな思いでしたね。

営業DX推進には、経営陣の協力が欠かせない

営業DXを推進するには経営陣の協力が欠かせません。現場の担当者やマネージャーが「属人化を解消しないとだめだ」といっても全社的に理解を促し浸透させることは難しいでしょう。経営層の協力がなく現場の活用度合いにムラがあると、営業DX推進は失敗します

当社でもツール導入にあたり経営陣が、名刺を会社資産としてデータを可視化する重要性を理解し、全社員へ伝えることによって営業DXが進んでいったと実感しています。そういう意味では「営業DXを推進するぞ」と決めたことに対して、経営陣が協力的であったのは心強かったですね。

梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見晃宏氏

営業部だけではなく「全社」で名刺管理を徹底する

ーー当初から、全社的にツールを導入されていたのですか。それとも部署単位での導入だったのでしょうか。

ツール導入当初、社内の認識は「営業部だけのツール」というものでした。

しかし私は名刺管理は全社で行うものだと考え、全社的な働きかけを行いました。なぜなら酒造メーカーとしてのお付き合いは、酒屋さんだけではなく原材料メーカーさんや製造関係、広報機関とのつながりなど幅広く、さまざまな関係性によって成り立っているからです。

眠っている人脈に宝の山がある

社内のメンバーにおいても部署異動や退職の度に、せっかく築いた人脈が途切れてしまうということがよくありました。退職者のファイルだけ引き継いだものの、お客様との関係性までたどることができない。しかしその眠った人脈にこそ宝の山がある可能性があると考えました。

そこで、お客様情報をしっかり共有するためにも、営業部門だけでなく会社にあるすべての名刺をツールに入力するよう働きかけました

ーー全社的にツール活用の理解を促し浸透させていくために、実際にどのようなことをされたのでしょうか。

朝礼で社長や私が全社に向けて情報発信していました。また掛け声だけでなく、私が推進担当者としてツールの使い方やノウハウなどを社内の電子掲示板で共有しました。

情報発信の際は、「この機能を使えばこんなことができる」「こんな便利な使い方があった」など具体的な事例を挙げて丁寧にフォローすることを意識していました。

退職者の名刺から1億円の売上に

全社的に名刺情報をツールに入力することを徹底したことで、新規取引先情報をデータ化・共有するだけでなく、退職者が残した名刺情報の可視化もできました。

そのなかで、退職者が過去にやり取りしたお客様の情報からアポイントを取り交渉を重ねた結果、大手量販店との大型契約に至りました。その契約によって年間約1億円の売上が生まれ、2022年度の売上はコロナ禍がはじまった2019年度を上回る実績となりました。

この成功事例の横展開によって、他の大手量販店との契約の話も進んでいます

ツールでお客様とのつながりを見つけたら、成功事例を参考に、まずはアプローチしてみるということを営業担当者に徹底してもらっています。

営業DXの成功事例を、部門を超えて横展開していく

ーー成果が出たことで社内の営業DX推進の機運も高まるのではないですか。

そうですね。目に見える成果が出たことで社内の士気は高まっていると思います。

また営業DXの成功事例を、原材料の調達に関する部門においても横展開していきたいと考えています。

当社の売上構成はフルーツを使ったリキュールが大半を占めます。人口減少にともないフルーツの生産農家さんの数も減少傾向にあるなか、原材料の調達は喫緊の課題です。

調達の幅を広げるためにも人脈やつながりを生かし、ビジネス機会を最大化していきたいですね。

ーー他のツールを導入しやすくなる、DXを推進しやすくなったというような変化はありましたか。

成果を出したことで、ツール導入など業務効率化に関する議論や提案をしやすい環境ができてきたと思います。

営業DXに限らず、現場の担当者から業務効率化につながるアイデアや意見が積極的に出るようになったのは良い変化ですね。製造メーカーとして、機械設備に関する改善案などの議論が活発化するのは頼もしいと感じています。

ただ経営陣は費用対効果をシビアに見ていますので、アイデアを実現させるためには推進者や体制、覚悟などが必要です。

専門人材の育成と部署設置が今後の課題

ーーDX推進に特化した専門部署を設けられているのでしょうか。

専門部署の設置はまだ進んでおらず、一部の推進者に頼っている状況です。

全社的にDXを推進していくためには、デジタル推進部やシステム部を設置する必要があると思います。専門人材の育成も含めた体制整備は次の課題だと考えています。

梅乃宿酒造株式会社 物流部 商品管理課 課長 吉見晃宏氏

営業DX推進によって“お客様のための時間”を創出していく

ーー改めて、営業DXの定義をどのようにとらえ推進していきたいとお考えですか。

営業DXはツールを導入することが目的ではなく、ビジネスにおける限りある時間のなかから“お客様のための時間”を創出するために必要な変革だととらえています。

デジタルで効率化できることを積極的に取り入れることによって、お客様のための時間をつくり出せると思います。当社の場合であれば営業DXで創出した時間を使って、酒屋さんや、その先にいる一般消費者のニーズまで想いを巡らせ、どのようなお酒が好まれるのか考え検討し続けることで営業生産性を上げられると考えています。

どれだけデジタル化が進んだとしても、営業活動においてはいかにお客様と信頼関係を築けるかが重要です。いつの時代も変わらず、営業担当者には信頼できる人となりや姿勢が求められると思います。

お客様との信頼関係を構築するには、提案準備の時間を拡充させるなど、人にしかできない“お客様のための時間”をつくる必要があります。その時間をつくり出すためにも、今後も積極的にDXを推進していきたいと思っています。

ーーありがとうございました!

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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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